瀬戸内寂聴

石牟礼さんとは指で数えられるほどしか逢っていないのに、まるで毎週逢っていたように、その時々の表情や、よく似合うヘアスタイルが眼底に焼きついている。細々とした声音や、それに似ない強い烈しい言葉の内容も、年月に犯されず、瑞々しく心に焼きついている。いつ逢っても前日のつづきのような親しい口調で心をかたむけて話しかけてくれるので、自分が深く好かれているような温かい気分になってくる。それは石牟礼さんの心の温かさとやさしさのせいだろう。自分がこの偉大な作家に好かれているようなうるおった気分にさせられているのだ。石牟礼さんは嘘をつけない人だから、何かの縁で逢った目前の人物を、心の底から愛そうとされる。嫌な人物に逢うことを、自分が嫌っているからだ。